目指すのは原始人や動物でもわかる絵

MORITORATION_Vol.2【後編】

目指すのは原始人や動物でもわかる絵

林青那 Hayashi Aona画家

絵を買って、部屋に飾る

もりと:今後はどういう仕事がしたいの? 描きたいものとか、得意なものがあったら教えて下さい。

林:いまもいくつかやらせて頂いているんですけど、包装紙の仕事は楽しくて好きです。あとはテキスタイルとかも。イラストレーションというより画家的な仕事だし、サイズも大きいので、自由に気持ちよく描ける。自分でも相性がいいなと思います。作家性が出せる仕事は楽しくて、よいものを作れる自信もちょっとはあるから、そういう仕事の依頼が多くきたらいいなと思ってます。

もりと:毎年作ってるカレンダーも包装紙みたいだよね。文字が絵みたいで、独特で好き。

林:私にとって文字は絵の一部でもあります。文字だけの仕事もたまにあるんですけど、それもすごく好きです。

もりと:そういえば、毎年展覧会をやっているよね。展覧会って、絵を描く以外にもいろいろやることがあって大変じゃん。僕らは2人いるからいいけど、青那ちゃんは1人なのに毎年続けているのはすごいね!

林:それもご縁があればやる、って感じです。やっぱり基本受け身なので、あまりにも違うなって思うもの以外は忙しくても頑張ってみます。でも毎回展覧会の前は、「絶対にできない」ってところから始まって、描ける状態になるまでずっと底に沈んでいる感じで、すごく不安と言うか……。

もりと:毎回大変だね(笑)。でも、またやるってのがすごいよね。展覧会をやりたい理由は何? 絵を見てもらいたいから?

林:なんだろう。特に理由を考えたことはないかもしれない。でも、作品を作っても押入れにしまわれるだけでは存在しないも同然なので、日の目を見せてあげたい。それと「絵を飾って欲しい」という気持ちもあります。私は人の作品も時々買うんですけど、日本人はあんまり絵を飾らないってよく言われるじゃないですか。ほかの人も服や器を買うように「絵を買って飾って欲しい」とは日頃思っています。

もりと:うちにも青那ちゃんの絵を飾ってあるけど、家の空間に動きが生まれるっていうか、なんかいいんだよね。紙なんだけど、物を置いているような感覚がある。僕はそれを民芸品みたいだなって思ってて。

林:それはすごくありがたいです。紙の上にある表現ではなくて、作品自体が民芸品のような「モノ」でありたいなと思っています。

もりと:普段、絵の値段はどうやって決めてるの?

林:ずっと悩んでるんですけど、さっきの民芸の精神もあったりして、手の届く値段にしたいというのもあります。自分としては2度と同じ絵は描けないし、もう少し価値のあるものだと思っているんですけど。まだまだ新人だし、好きな作家の作品展に行ったりして、「この作家よりも高くするのは気がひけるな」と考えたりしながら、毎回悩みつつ決めてます。ギャラリーの方には安いね、大丈夫? って時々言われるんですけど、新人の気持ちから抜け出せたら、徐々に適正な価格にしていけたらいいなと思ってはいます。

もりと:安い時に買ってよかった(笑)。

林:そう。だから、いまのうちに買って下さい(笑)。でも、本当はギャラリーや買う人に決めて欲しいなとも思います。

もりと:そうなるとまずはお客さんを育てないといけないけど、その考え方は面白いね。どんな人も絵を見る力がもっと身についてほしいな、って僕も思うよ。

モノクロームへの憧れ

もりと:黒にこだわる理由を教えてもらえますか?

林:特にこだわってはいなくて、ただ強いものが作りたいからですかね。線画も描くんですけど、弱いなと感じて全部塗りつぶしちゃったり。黒という色は断然強さがあると思います。それとシンプルに墨汁という画材が好きです。絵具の黒はそんなに好きじゃない。でも、絶対色を使いたくないって思ってるわけではないです。昔は色も使っていました。HBファイルコンペで大賞をとった作品が墨1色の作品だったので、自然な流れでいまも続いているだけで。でも、そもそも色鮮やかで、明るいものがそんなに好きじゃなかった。光も苦手で、明るいところにいると頭が痛くなるんですよ。黒は落ち着く色です。

もりと:なるほど。黒にこだわっているというよりは、それが自然な状態なんだね。今日着てる服も真っ黒だもんね。

林:落ち着きますね。あと描いていると汚れちゃうので。今日は作業着なんですけど、普段から服も基本黒です。それから、モノクロームという意味では名前の由来になったイヴ・クラインに相当影響を受けているような気はしています。クラインは彼自身が作ったインターナショナル・クライン・ブルーという青色を使ったモノクローム作品が有名で、それ以外の作品も基本的に単色です。だから、昔からモノクロームを意識していたんだと思います。

もりと:イヴ・クラインさんやフィリップ・ワイズベッカーさんは画面にぎっちり描く印象があって、青那ちゃんもそうなんだけど、何か通じるところはありますか?

林:どうなんだろう。絵を描く時は、基本的に考えたり狙ったりしていないので。でも、強さを求めると、やっぱりぎっちり描きたくなっちゃうんだと思います。特に抽象画の方は制約があると自由に描けなくなるから、ロール状の大きな紙にあまり何も考えずに描いていくので、紙は描いたあとにカットすることもあるし。

もりと:そうなんだ! 僕らの絵はだいたい中央に食べ物がポンとあって、紙の余白も作品だと思ってるんだよね。だから、自分たちにないものを求めるというか、ぎちぎちに描いている青那ちゃんがいいなって感じる。モチーフとして丸とか四角がよく出てくるけど、それは自然と出てくるの?

林:気持ちいいなと思う形を描いているだけ。すべての作品に意味はないんです。時々、どういう気持ちで作品を描いているのか聞かれるんですけど、私にとっては気持ちなんてどうでもよくて、できあがったものが直感的にいいかどうかが大事です。基本的に原始的なものに魅力を感じていて、丸とか線とか、単純な形が多いです。変な話、動物や原始人でもわかるようなプリミティブなものを目指したい。でも、それがいま受け入れられているのかはわからないです。一部の人にはかっこいいねって言ってもらえるんですけど、いまの時代、その絵を飾りたい人は正直少数だと思います。

もりと:そうかな? あと5年くらいしたら変わってくるかもよ。ちょっと早すぎただけみたいな。僕としてはいまのまま突き進んで欲しいな。どんどん世の中の王道からは離れていってしまいそうだけど(笑)。

林:どうなんでしょう。でも、自分も1年後、2年後に何を描いているかはわからないし、これからもこの絵を描いてこうみたいなのはないんです。ギャラリーの人も観に来てくれる人も、期待があるじゃないですか。前回の展示では買えなかったから今年こそは買おう、とか。だけど、その頃には違う表現がしたくなっちゃって期待に応えられないことも多くて、展示前は大丈夫かなってビクビクしながらやってます。

もりと:ところで、絵本には興味ある? 個人的に前の展示を観た時に、青那ちゃんの絵本が見たいって思ったんだよね。元永定正さんと谷川俊太郎さんの『もこもこもこ』って知ってる? ああいう感じの。

林:知らなかったです。もしそういう需要があるんだったらやりたい気持ちはあります、ちょっと怖いけど。1度自分で絵だけの絵本を作ろうかな、って思ったことはあるんですよ。文字はなくて、形をメインにした黒い絵本。でも、絵本はやっぱり鮮やかな赤とか青とか黄色を使わないと絵本としてはだめだろうなって……。

もりと:さっき動物とか原始人でもわかる絵を目指しているって言ってたけど、赤ちゃんも動物みたいなものだから黒い絵でも届くんじゃないかな。例えばだけど、文章を別の人が担当する絵本とかどう?

林:ルールがあったり、誰かと一緒にってなると恐縮したり、考えこんじゃって、自由な自分が出てこない気がするから難しいかな。

もりと:絵が先にあって、それに文章を付けるとかは?

林:それならいいですね。

もりと:じゃー、僕が内容とか作りたいな(笑)。

林:面白そうですね、絵本は憧れです。

これから絵で食べていきたい人へ

もりと:MORITORATIONの恒例、最後にこれから絵で食べていきたい人に一言。これを読む人のなかには、きっと青那ちゃんみたいな人もいると思うから。

林:私はたまたまの流れだけで、あまり努力していないし、まだまだなのでえらそうなことは言えないんですけど、コンペで賞をとったことが一番大きかったです。だから、言えるとするなら「コンペに出すこと」ですかね。やっぱり知られないと意味がないし。私コンペには2回出したんですけど、全然違う絵にしたんですよ。

もりと:それはすごいな。器用だね。

林:1回目で最終選考にも残らなかったので、きっとダメなんだなと思って。最終選考にもひっかからない絵をずっと描いててもしょうがないから、いろいろ実験して描いたのがいまみたいな黒い絵。自分1人で描いていても評価してくれる人がいないので、コンペは自分の実力がわかりやすいんです。私は基本的に自信がないタイプなので、認めてもらえたことで自分のスタイルのとっかかりにはなりました。

もりと:とにかくコンペに出して、人に見てもらって。イラストレーターとして活動を始めるなら、人に受け入れられる絵を模索した方がいいってことだよね?

林:人に受け入れられる絵っていうのはなんだか違う気もしますけど、絵を描く人がたくさんいるなかで自分を見つけてもらうには、とりあえずえらい人にいいねって認めてもらわないと仕事は頂けないのかなと。

もりと:みんな頑張って、と。

林:そうですね、頑張って……いや、頑張らなくてもいいかな(笑)。

もりと:頑張らなくていい、っていうのがいいな。最後に何がくるのかなって思って、”頑張らなくていい”。

林:一瞬誘導されそうになりましたけど、私は頑張ってないな、と(笑)。でも、もっとかっこいいものが作りたいっていう向上心はあります。まだ全然だから。生きているうちに、もっといいものが作りたい。

取材日 2020.1.25
文:MORITORATION編集部