マンガを描くのはすごく楽しい

MORITORATION_Vol.3【前編】

マンガを描くのはすごく楽しい

ながしまひろみ Nagashima Hiromiマンガ家・イラストレーター

彦坂木版工房・もりといずみが、さまざまな作り手にインタビューする「MORITRATION(モリトレーション)」。
第3回のゲストは老若男女問わず誰もが好きになってしまう愛らしい絵を描いている、マンガ家・イラストレーターのながしまひろみさん。彼女のマンガを読むと、子どもの頃の自分を思い出して温かい気持ちになったり、ちょっぴり恥ずかしくなったりします。そんな彼女のマンガはどうやって誕生するのか、たくさんお話を伺いました。
(今回は新型コロナウイルス〈COVID-19〉の影響により、初のオンラインインタビューを行いました。)

「子ども」を描く

もりといずみ(以下もりと):出会いを思い返すと、僕がInstagramでながしまさんの絵を知って、連絡したのがきっかけなんですよね。その後ながしまさんが僕らの展覧会に来てくれた時に初めてお会いして、飲みに行ったり、娘の絵を描いてもらったり、一緒に仕事をするようになった。

ながしまひろみ(以下ながしま):最近はお仕事でもご一緒させてもらったりして、お世話になってます!

もりと:僕はながしまさんの絵は誰もが好きなんじゃないかなってくらい、ものすごく「健康的」だと思っているんです。彦坂木版工房を始める前、彦坂の作品を初めて見た時に「誰が見ても何が描かれているかわかるし、温もりがあっていいな」って思ったんですけど、ながしまさんの絵にも同じような感覚がありました。だから、この人どんどん仕事が増えるだろうな、今のうちに仲良くなりたいって気持ちに……(笑)。

ながしま:とんでもないです。

もりと:そういう経緯もあって、ながしまさんのお仕事関連のものはいろいろ集めているんです。例えば、モスバーガーのお仕事や『母の友』(福音館書店)とか。

もりと:それにしても、やっぱりながしまさんは子どもを主役に描くお仕事が多いですね。

ながしま:仕事を限定しているわけではないんですけど、もともと子どもの絵が得意なので、自然と多くなりました。大人をモデルにした依頼があれば描くものの、子どもの方がフォルムとかそういうものをよく描ける気がしています。

もりと:マンガ家・イラストレーターとして仕事をする以前は、ランドセルを製造する会社に勤めていたんですよね? 小学生の子たちを描くのは、そういう影響もあるのかな?

ながしま:もしかしたら、その影響もあるかもしれません。あと北海道の田舎で親戚がすごく多い家庭で育って、小さい子がまわりに20人くらいいたんです。自分も子どもだったけど、少し年齢差があったのでその子たちの面倒を見ることが多くて、そういう意味で「子ども」に慣れ親しんでいたことは大きいかもしれないですね。

制作方法と最近の仕事

もりと:絵はどうやって描いているんですか?

ながしま:ネームとラフはiPadで描いて、原稿はそれをもとに鉛筆で線画を描きます。その後、線画をPCに取り込んで加工して、Photoshopで色を塗って完成。マンガの場合は水彩絵具で描いたテクスチャを取り込んで、レイヤーで重ねて仕上げることもあります。

もりと:そうなんだ! とても優しい絵なので、てっきり原画があるものかと思っていましたよ。意外とデジタルなんですね。そういえば、2019年まで絵の学校で勉強していたと聞いて、びっくりしました。すでにたくさん仕事をしているから、順番が違う気がしたんですよね。

ながしま:はい、パレットクラブスクールに通っていました。デザイナーとして働いていましたし、美術系の学校を卒業してはいたものの、2016年にいきなり「ほぼ日」でマンガ『やさしく、つよく、おもしろく。』(ほぼ日ブックス)の連載を始めてしまったので、マンガやイラストレーションについては全然知らなかったんです。ありがたいことに連載中にイラストレーションのご依頼も頂いていたので、学ぶなら早い方がいいし、ちゃんと勉強してみたいと思いました。

もりと:絵が上達したように思いましたが、自身での手応えはどうですか?

ながしま:描く技術が上達したわけではないと思うんですけど、やっぱり勉強になったし、1つひとつちゃんと意識を持って描かなきゃって考えられるようになったことは大きかったです。

パレットクラブスクールに通っていた頃の課題作品

もりと:ながしまさんって、すごく謙虚ですよね(笑)。

ながしま:キャリアを1つずつ積み上げたというよりはいきなり仕事が始まって、あとから慌てていろいろ勉強しているので、やっぱりどうしても控えめな感じになりますね(笑)。

もりと:とはいえ、最近は絵本を出版したり、広告や書籍のイラストレーションを描いたり、マンガ以外のお仕事でも活躍されていますね。僕もこの前、自分がディレクションしたロゴマークのイラストレーションをながしまさんにお願いしましたが、僕のラフとは違うものが出来上がって、いい意味で驚いたんですよ。ながしまさんは僕の作った案に沿ってただ絵を描くだけじゃなくて、きちんとロゴマークとして昇華させて納品してくれた。絵が描けて、デザイナー的な感覚もあって、すごい器用な方だなって。依頼してよかったと思いました。

ながしま:最初はもりとさんが作ったラフがすごく完成度の高いものだったので、そのままでもいいなと思いましたが、せっかく頂いたお仕事なのでほかのバリエーションも考えてお渡ししました。そのうちの1つを採用して下さったという流れでしたね。

もりと:別案で描いてくれたロゴの方がながしまさんのよさがすごく出ていて、「そうそう、こういうの待ってました!」という感じで選びました。

もりとと一緒に作ったロゴマーク

突然のマンガ家デビューと原点

もりと:マンガ家を志してすぐ、ほぼ日での連載が始まったんですか?

ながしま:マンガ家を志していたわけではないんです。「ほぼ日の塾」というライターさん向けのコンテンツ作りを学ぶ無料の学校に参加して、ある課題でマンガを描いたら「連載しませんか?」って声をかけてもらって。本当に偶然の出来事だったんですけど、マンガを描くのはすごく楽しくて自分に合っていると感じたので、連載を始めることにしました。

もりと:まさか、マンガ家になるとは。人生何があるかわかりませんね。

ながしま:そうですね。でも、もともとマンガがすごく好きだったんです。詳しいわけではないけれど、小さい頃からいろいろ読んでいて……。一番影響を受けたのは、高校生の頃に読んでいた『行け!稲中卓球部』や『僕といっしょ』の作者、古谷実さんのギャグマンガ。ギャグなのに深い寂しさもあるんです。そこからいろんなジャンルのマンガを読むようになり、松本大洋さんや望月ミネタロウさん、くらもちふさこさんのマンガも大好きになりました。

もりと:ながしまさんのマンガは個人的にはすごくおしゃれな『ちびまるこちゃん』って感じがしていたんですけど、まさか古谷実さんに影響を受けているとは……。ところで、自分のマンガや絵本のお話は原案から考えているんですか?

ながしま:ほぼすべて自分で考えています。

もりと:僕らの場合は絵本だけど、描きたいお話が湧き出てくることってほとんどなくて、テーマがある方がやりやすいからすべて自分で出来ちゃうのはうらやましいな。イラストレーションやマンガの登場人物にモデルはいますか?

ながしま:特にいないのですが、少なからず一緒にお仕事する方の雰囲気に影響を受けて考えることが多い気がしますね。

もりと:主役に女の子が多いのは、ながしまさんが女性だからということも大きいでしょうか。

ながしま:はい。特に最初のマンガ『やさしく、つよく、おもしろく。』は、もし自分に娘がいたらと想像したり、大人になった自分や子どもの頃の自分について考えながら描きました。

もりと:そういえばそのマンガの主人公は「ゆきちゃん」ですが、ながしまさんのほかの作品にも同じ名前の女の子が何度も登場しますよね。同一人物ですか?

ながしま:絵本『そらいろのてがみ』(岩崎書店)と『やさしく、つよく、おもしろく。』のゆきちゃんは同一人物のつもりです。『鬼の子』(ウェブサイトcakesにて連載中)のゆきちゃんもそのつもりで描きましたが、マンガの内容に合わせて少し性格を変えています。ゆきちゃんは愛着のあるキャラクターだったので、単純に次のマンガにもいてほしい、という思いで出演してもらいました。ゆきちゃんに限らず登場人物みんなに言えることなのですが、自分の子どものように思っています。だから、主要な人物を描く時は、自分が感じたことのある感情をちょっとずつキャラクターに持たせて、実感を持って描くようにしていて。その方が描いていて気持ちも入るし、楽しいし、それは読んでいる人にも伝わるような気がします。

取材日 2020.6.19
文:MORITORATION編集部

後編に続く>>