伝えたいメッセージはまだない

MORITORATION_Vol.3【後編】

伝えたいメッセージはまだない

ながしまひろみ Nagashima Hiromiマンガ家・イラストレーター

いろいろな営業方法

もりと:ところで、マンガの依頼ってどういうものなんでしょう。クライアントからこういうお話を何話くらいで描いてくれませんか、というような依頼があるんですか?

ながしま:連載しているマンガに関しては自分で持ち込んで「こういうマンガが描きたいんです」ってところから始めたんです。もちろん人気作家さんだったらメディア側から声がかかることもあるはずです。あと、コミティアなどの大規模な同人誌即売会などでは編集さんとの出会いの場があるので、それがデビューのきっかけになることもあるみたいですよ。

もりと:基本は持ち込みなんですね。結構勇気がいりますね。僕らだと今は依頼があってお仕事をしていますが、駆け出しの頃は全国で展示会をして、そこで見に来て下さった方々からお仕事を頂いていました。やはりマンガとイラストレーションは似ているようで、営業のやり方から全然違うんですね。そのほか営業の仕方があれば教えて下さい。

ながしま:やっぱりSNSで毎日発信をして、という方も多いですよね。Twitter上で連載して、終わったら書籍化するような流れも最近はありますし。

もりと:ながしまさんのマンガも、ウェブ上で読めますもんね。ウェブで連載したものが、本になるのはどういう感覚ですか?

ながしま:やっぱり本になると嬉しいですし、まとめて手元で読めることは別の価値があっていいです。

デザイナーだった頃に作った自主制作マンガ

物語の作り方

もりと:マンガ家の知り合いがあんまりいないのでうまく想像出来ないんですけど、どうやったらそんな風に描きたいものがどんどん出てくるんでしょう?

ながしま:どんどんは出てこないです(笑)。私の描く人は表情も全部一緒なので、斬新なキャラクターを生み出しているわけでは全然ないですし……。

もりと:お話は結末から考えるんですか。

ながしま:まだそんなにたくさん作っているわけではないですけど、短編じゃない限りは物語の始まりから考えていきます。結末に関してはなんとなく最後はこうなるというところまでざっくり決めて、その後のお話に関しては掲載される1~2カ月くらい前から2~3話ずつネームを考えて担当さんにチェックしてもらう流れで、ちょっとずつ決まっていきます。

もりと:ページ数やコマ数を考えつつ、1話分はここまでというような流れで作るんですか?

ながしま:そうですね。まず描きたい場面やエピソードを箇条書きで書き出して、それをパズルみたいに組み立てていきます。組み立てているうちに予期せず「あ、この感情だ! これを描こう」というのが出てくるので、それが1話の中に1つでも盛り込めるようにしています。出てこないこともありますが……。その段階で1度編集者さんにつじつまが合っているか、不自然なところはないかなどをチェックしてもらい、少しずつブラッシュアップしていく流れですね。地道な作業に付き合って下さる編集者さんにはいつも感謝です。

もりと:ながしまさんの作品を読んでいると子どもの頃を思い出してジーンとしてしまったりして、本当にすごいなと思います。どうやったらそんな風に生々しく描写出来るのでしょうか。僕は娘が生まれたことで少し感覚が変わったんですけど、それまでは全然そうじゃなかったんですよね。

ながしま:子どもの頃のこと、大人になってからのこと、いろいろ組み合わせて描いています。でも、ほかの人よりすごく覚えてるとかそういうことではない気もします。言葉を取っかかりに思い出したり、考えていくと、子どもの頃のことがたまたまそこにあったというような感覚で……。『やさしく、つよく、おもしろく。』を描いた時もすでに書き出してあった言葉や感情をもとに、いろいろと想像したり、思い出しながら作りました。『鬼の子』ではドラマの台本のように、背景描写や台詞をテキストにしてから、ネームに取りかかっています。絵にしてみると違和感があったりもするので、調整しつつ形にしていくんです。

もりと:最近娘を見ていて「そんなことに興味あるんだ」って思うことが多いんですけど、ながしまさんの作品からはそういうことがたくさん感じられてすごく羨ましいです。僕はそういう娘の行動を見ていて、「絵本になるんじゃないか」と常にアンテナを張り巡らせて生活しているんですけど、ながしまさんもそうですか。

ながしま:ずっとではないですが、普段の生活のなかで気づいたことや感情は自分の中に貯めています。

もりと:ふと思い出した、子どもの頃の感覚とか?

ながしま:そういうこともありますが、やっぱり今感じていることの方が多いかもしれません。

もりと:最近Instagramのストーリーズにアップしている「日記」もその一環ですか?

ながしま:あれは「自分にコミックエッセイって描けるのかな?」と思ったことがきっかけなんです。最初は猫を飼っているわけでも子どもがいるわけでもなく、1人で暮らしている私には観察対象がないから描けないって感じていました。でも、よく考えたら文章だけでも素晴らしいエッセイはたくさんあるし、自分だったらどういうものを作れるだろうと考えて、メモを書くような気持ちで始めたんです。いつかあれをマンガにしたいんですけど、毎日マンガを描くのはきついので、そのままずるずる同じ形で続いてます。実はTwitterでテキストだけを投稿するのとかは緊張しちゃうんですよね。でも、メモのように手で書くのは不思議とリラックス出来るし、日報がわりでもあります。

知ってもらう機会を作ること

もりと:ながしまさんは、作品を通してどんなメッセージを伝えようと考えてますか。

ながしま:描いたものを誰かに見てもらって反応があって、それに自分が癒されることが一番のモチベーションなので、こういうことを伝えたいってメッセージはまだないんです。

もりと:すごい、それでよくあんな物語が描けますね!

ながしま:長い話は労力がかかるので、しんどいなって思いつつ描いてますよ(笑)。でも、最初にマンガを描いた時からそういう感じなんです。自分にしかわからないような感情を描いて、誰かが「私もわかる!」って言ってくれたりすると嬉しい。この仕事はそういうところがすごくよいです。

もりと:今後もっとやってみたい仕事はありますか?

ながしま:私は音楽を聴きながら仕事をすることが多くて、いつも励まされているので、音楽に関係する仕事がいつか出来たらうれしいです。

もりと:NHK「みんなのうた」とか、すごく合いそうだけどなぁ。今後どんな作家を目指していきたいですか。

ながしま:変わっていくのかもしれないですけど、今は詩とか絵本を声に出して読んだり、音楽を聴いて癒されるのと同じような読後感の作品を作りたいです。しんどい時に一瞬でも「ああ、読んでよかったな」って思ってもらえるような、「自分が大事にされている」と感じられるようなものを描けたらいいですね。

もりと:それはやっぱりマンガですか?

ながしま:私の絵はマンガ向きだし、慣れ親しんできたジャンルでもあるので、やっぱり基本はマンガがいいのかなと思います。でも、絵本もまたぜひ作ってみたいです。

もりと:……最後に「MORITRATION」恒例の質問です。マンガ家として活動していくために、後輩たちにアドバイスを一言お願いします。

ながしま:私は特殊な立ち位置なので「マンガ家」としてのアドバイスは難しいんですけど、知ってもらう機会を作ることは大事だと思います。SNSをやっていない素敵なマンガ家さんもたくさんいるので必須ではないですけど、TwitterやInstagramなどで作品を発表するのは手軽で反応も早いので、私も最初の頃は1日1枚絵をアップしたりしていました。

もりと:実は、僕ちょっとSNSに抵抗があるんです。数字で評価されたり、マネされちゃうんじゃないかって懸念があって。でも、この間彦坂と話していたら、だんだんそういう感覚が古い気もしてきました。

ながしま:熱心にやるには向き不向きもある気がするので、フォロワー数や「いいね」に一喜一憂せず、ウェブサイトを更新する感覚くらいがいいのかもしれません。もりとさんもその1人ですけど、最初の頃は著名な作家さんとかイラストレーターさんがいいねしてくれることで「また作ろう」って思えたんです。そういう意味ではいいツールなんじゃないでしょうか。

取材日 2020.6.19
文:MORITORATION編集部