自分なりの物語を作る

MORITORATION_Vol.4【前編】

自分なりの物語を作る

小池アミイゴ Koike Amigosイラストレーター

彦坂木版工房・もりといずみが、さまざまな作り手にインタビューする「MORITRATION(モリトレーション)」。第4回のゲストはさまざまなフィールドでイラストレーションを描く、熱くて、シャイなイラストレーター、小池アミイゴさん。個人的にもとても親しくて、僕にとっての兄貴分。普段アミイゴさんと会う時は決まって酒の席ですが、今回に限ってはノンアルコールで直撃インタビュー!

昔もいまも変わらない

もりといずみ(以下、もりと):アミイゴさんは長い間活躍しているから、昔といまではずいぶん感覚も変わったと思うんですが……。

小池アミイゴ(以下、小池):基本的に何も変わってないよ。いつも飢餓感、危機感があって、守るものは一切ない。例えば、羽田空港の大きな仕事をやりましたって言っても、あんまり執着しないんだよね。目の前に仕事があったら、ギャラが5,000円ぐらいでも「これをよくしよう」って集中しちゃうし、ずっとそうやって仕事してきてる。

もりと:それはデビューの頃から?

小池:そうだね。目の前の餌に釣られる野良犬みたいなもんですよ。

もりと:そうなんですね(笑)。デビューが1988年だから、もう30年ぐらい経ちますよね。

小池:ザ・チョイスで入選したのが1988年で、そこからずっとイラストレーションの仕事をしてる感じ。

京都新聞朝刊一面連載「澤田康彦 新暮らしの歳時期」挿絵
『甘露なご褒美』(渡辺満里奈著/マガジンハウス)挿絵
バンド・カセットコンロスと一緒に作ったピンバッジ

もりと:以前アミイゴさんと呑んでた時に、マンションの一室に閉じ込められて絵を描いた話を聞きましたが、あれはいつ頃?

小池:デビューした次の年、1989年に病気して1カ月入院して、退院したあとぐらい。

もりと:病気したんですか? 忙しくて?

小池:絵で仕事できるのがとにかくうれしくて頑張ってたし、お酒が好きで飲んで人と絡んだり、無軌道だったんだよ。寝ないし、遊ぶし。病気した時に自分の仕事を振り返ってみたんだけど、これじゃまずい、使い捨てされるなって気づいて、もう1度自分を見つめ直すためにいまにつながるようなペインティングをはじめたんだ。

もりと:そういえば僕らも駆け出しの頃は、消費されないようにすごい気をつけて活動してたな。でもお仕事頂けると、本当にうれしいですよね。

小池:もりとくんに話したマンションに閉じ込められた仕事は、流通系の広告の依頼で。その頃『Hanako』の表紙なんかを描いて人気だったケン・ドーンそのまんまのビジュアルを作りたかったんじゃないかな。本人に依頼したいけど、ギャラが高いし、多忙だから難しい。まずは指定された通り色鉛筆で描いて見せたけど、「ダメだ。お前なんかイラストレーターじゃない」とか言われた。もう1度描き直しても、夜中に電話がかかってきて、「見たぞ、なんだあれは」ってダメ出し。次の日マンションの一室にある事務所に行ったら、そんなものを使ってるからダメなんだってステッドラーの色鉛筆を渡されて、これ使ってここで描けって言われて。悔しいんだけど、ここにいる奴らには絶対負けないって無言で丸二日間とにかく描いた。

もりと:ウソみたいな話ですね(笑)。アミイゴさんでも「この人っぽい絵を描いて下さい」みたいなことを経験したんですね。

小池:当時から作風はどうでもよくて、この仕事で救われる人がいるよねって気持ちの方が強いんだよ。例えば、イラストレーションの初仕事で東急エージェンシーの人から依頼があって、会いに行ったら「風景画とてもいいですね。私たちが描いてほしいのは人物なんですけど、描いてもらえますか?」って訊かれた。本当はできるかどうかわからなかったんだけど、すごくうれしかったから「できます!」って即答。要するに、イラストレーションよりもコミュニケーションして、必要なものを提供する仕事が好きなのかもしれない。

もりと:ところで、ケン・ドーンみたいな仕事は無事終わったんですか?

小池:「いろいろきついことも言ったけど、これをプレゼンに使わせてもらうよ」って、最後はちょっと認めてもらえたのかな、結局仕事にはならなかったけど。その事務所にいた若いデザイナーたちに「○○さんからいいって言われた人は必ず売れるんです」とかって励まされたんだけど、何言ってんだ、言われなくても売れるぞ、この野郎! って。

持続可能な方法の模索

もりと:そしたら、頂いたお仕事は断らない感じですか? 納期に問題があっても?

小池:うん、基本依頼があった仕事は全部やってる。いままで断ったのは明らかなマルチ商法だけだよ。納期もやりくりするかな。雑になっちゃったものもなきにしもあらずかもしれないけど、絵で社会と関わる喜びと比べたら、自分の生活はどうでもいいぐらいに感じてる。

もりと:チャンスを毎回ものにしてるんですね。よく全部成し遂げられますね。失敗したこととかないんですか?

小池:面白い話があるんだよ。まだ、セツ・モードセミナーの生徒でイラストレーター駆け出しの頃、文化出版局の雑誌の目次ページに節先生が弟子を紹介する連載があって、それが俺にもまわってきて。編集者はありものの絵を使わせてほしいと言ってきたんだけど、いま俺はこれだけのことやってるのにインスタントに済ますのは違うと思うから、ほかの絵も見て下さいって頼んだ。そこまで言ってくれるんだったら、編集部に来て下さいって言ってもらって、B全のパネルを30点ぐらい担いで行って会社の廊下に広げたんだけど、編集者は「あ、あ、あ、すごくいいですね」って……。この時は俺も失敗したなと思った。

もりと:温度が違ったんですね(笑)。

小池:これ必要ないんだなって、身体で覚えていく感じ(笑)。

もりと:そのあと仕事につながったりとかは?

小池:ないですね。

もりと:面白いし、アミイゴさんらしいや(笑)。原稿料がものすごく安い時はどうしてるんですか?

小池:必然性があれば受ける。実はギャラに関して、最近やっと話せるようになったんだよね。基本的にこちらには基準がないから、だいたいバジェットを聞いちゃう。みんな本当のことは言わないだろうけど、ひとまず数字を聞いて、自分の経験と照らし合わせて、あいみつを取るような感じ。縁があって依頼されてるんだから、仕事が消えちゃうのは嫌なんだよね。相手の熱意によって、お互い無理のない金額でやろうと考えているよ。そうしたら次も一緒に作りましょうって言えるじゃん。

2号続けて表紙を担当した文芸誌『アルテリ』(橙書店)
『FRaU』(講談社)2020年1月号「SDGs」特集で描いた漫画

TISの運営と水丸さんのこと

もりと:TIS(*1)の理事長になってみてどうですか?

小池:やっぱり、安西水丸さんが亡くなったことはでかいよ。水丸さんはイラストレーションの業界をずっと支えてくれてた。その証明の1つに、俺が副理事長の時に富山県の美術館から招待状が届いて、足を運んだ時のことがあって。キュレーターに挨拶をしたら、ずっと水丸さんの話だった。水丸先生はいつも顔を出して下さってたんだけど、急にいなくなっちゃって、今日アミイゴさんが来てくれてすごく嬉しかったですって。水丸さんは人1人の力が「イラストレーション」を少しずつ広げていくという意識があって、そうやってつないでくれてたんだよね。

もりと:じゃあ、水丸さんみたいな方法で運営しているの?

小池:俺はイラストレーター、イラストレーション業界に対してのビジョンは別にないんだよね。それぞれ考えを持って活躍すればいい。でも、1人ではできないこともあるから、そういうところをちゃんとカバーする会であってほしくて。財務も一新して、2020年3月の総会でもっとイラストレーションと社会をつないでいく会にしたいって気持ちを共有して、変えていくつもりだったんだけど、新型コロナウイルスの影響でそれもできなくなった。そこから半年以上、生活が苦しくないかってアンケートメールを送ったり、ずっとコロナ対策をやってる。イラストレーターはみんな1人でやってるから、ちゃんと見てるよって言っていかないと、鬱になっちゃう人もいるだろうから。

もりと:僕ら彦坂木版工房は2人でコミュニケーションが取れるからいいんですけど、1人で悶々とやってるとそうですよね。返信はありましたか?

小池:うん、面白かったよ。「もともと仕事がないから変わりません」って人も結構いた。これは批判じゃなくて、そういう現実をもっと見ないといけないなって気持ちになった。みんな能力のある人たちなんだけど、TISは絵のよしあしをジャッジをする会になりすぎたと思う。

もりと:なるほど。それはコンペとかの話ですよね。

小池:うん、コンペとか展覧会とか。そういうことより、みんなが仕事の現場でどういうコミュニケーションしてるのかが気になってる。SNSを見てると「描かせて頂きました」って文言をよく目にするけど、それってすごく受け身じゃん。俺は一緒に作りましたって感覚だから、そういう風に言うことは絶対ないし、○○さんから依頼があって、この仕事にはこういう風な物語があるって伝えたい。1つ1つの仕事に対してコミュニケーションの積み重ねをみんなそれぞれやっているんだから、自分の仕事のやり方みたいなものを提示していかないと、まずいと思うんだよね。

もりと:僕たちも自分たちが担当したものが売れたり、機能しているのをほかのお客さんが見てくれて、依頼されることが多いです。もちろん個性的なイラストレーターもいいなって思うんだけど、彼らはどちらかと言うとアーティストですよね。

小池:そうだね。いまメディアが少なくなってきて、アーティストタイプの方が一攫千金のチャンスがあるって感覚もわかるんだけど、全然自分で仕事を掘り起こしに行ってないなって思う。必要としている人はいるのに。だから、自分なりの物語を構築しないと。そうしないと、グラフィックデザインのピラミッドの底辺にある仕事になっちゃうからさ。

もりと:コロナとか関係なしにTISの会員でも仕事がない人の方が多いってことですよね?

小池:多いと思うんだよね。職業っていうよりも、ライフスタイルみたいになってる。インターネットでビュー数稼いで、でかい仕事につながるギャンブル性も悪くはないんだけど、もうちょっと足元から耕すことやっても楽しいんじゃないかなって。俺はそっちだからね。話を戻すと、要するに作品のジャッジをするんじゃなくて、いい仕事をして、その仕事に光をあてることで注目されて、次の仕事が生まれる、TISはそういうことを主眼にした会にしていきたい。

*1 一般社団法人東京イラストレーターズ・ソサエティの略称。250人以上のイラストレーターが所属している組合のこと。

1枚の絵とコミュニケーションの力

もりと:アミイゴさんのLOVE九州の絵、すごくポップで明るくて好きです。

小池:これこそまさにお客様へのラブレターだよね。ケン・ドーンっぽい仕事でスキル上げた結果だよ。ケン・ドーンはシドニーが好きでシドニーをよく描いてたんだけど、彼もそういう気持ちだったと思う。やっぱり愛だよね。

もりと:これまでの日本の被災地を応援するシリーズとは全然違いますよね。

小池:やっぱり新型コロナウイルスの影響がでかい。いままでだったらウェブに絵をアップして自由に使ってもらって、会いに行って手伝ったり、励ましあったりができたけど、いまはそれができないから。以前より描き込みが多いのも、逆に引き算している感じがあるんだよね。自分の存在を引いて、共有できるものだけを差し上げるみたいな。雑に描いてるように見えるけど、力が入ってる。

もりと:すごくいいなと思いました。なんだろう、毒がないんですよ。

小池:もりとくん、いいこと言うね。そう言ってもらえて、ほんとによかった。表現に対して毒があっていいよね、もっと毒を出したらいいよとかってよく言うじゃん。そりゃ、そこそこ儲けてて都会でシングルでイケてる生活してる人には毒が必要なんだろうけど、お客様、要するに受け取る人たちの生活を見てると、毒なんかいらないよって思う。だから、毒を毒で制すように描いてる。

2020年7月の九州豪雨に際して描かれた「LOVE KYUSHU」

もりと:アミイゴさんもいいこと言いますね。何か反応はありましたか?

小池:すごかったよ。勝手に作ったダサいTシャツとか送りつけてくる。送られてきたのがXLですごくでかいんだけど、柄が可愛いから、俺が着るとリハビリのお父さんみたい(笑)。

もりと:(笑)。でも、よかったですよね。元気もらったって証拠だから。

小池:俺の経験上、9割9分が良心のある優しい人たちなんだけど、本当に危機に置かれている人たちに対してみんな無力感を感じてるんだよね。でも、1枚絵があったら何かに使えるじゃん。そういう想像力を働かせて描いたら、やっぱりグッズとかいっぱい作ってもらえた。俺が元気を与えるよりも俺の絵を利用して、それぞれが1つアクションを起こすことで、誰かに元気を与えるきっかけになればいい。

もりと:アミイゴさんのそれは、もうイラストレーターの活動じゃない。「あ、この人イラストレーターだったんだ」って時々忘れそうになります。

小池:イラストレーターだって知らない人いっぱいいるよ(笑)。俺ってものすごくシャイじゃん。子どもの時も1人で遊ぶのが好きだった。そのわりによくコミュニケーションの話をしてるなって自分でも思うんだけど、結局俺自身が生きるのに必要だから必死なんだよね。

もりと:活動当初もコミュニケーションや人との関わりを大切にしていたんですか?

小池:いま振り返ると、やっぱりみんな何でコミュニケーションしないんだろうってものすごく思ってた。セツ・モードセミナーに行ったのは、そういうコミュニケーションがある学校だったから。当時の俺は本当に絵が下手だったんだけど、いいもの作っている人がいると我慢できなくて近づいちゃうんだよ。これは、誰に対してもで、それが和田誠さんでも同じ。緊張してるんだけど、話してると熱くなってきて、「いいっすよね!」とかタメ口になっちゃうんだよね。みんなフェアに言いたいこと言って、自分のやり方で伸びていくのが俺の理想なんだよ。イライラしたり、啓蒙的なことを言うだけじゃなくて自分がやって、その背中を見せるしかないかなって思ってるんだけど、振り返ると誰もいない(笑)。

もりと:僕はアミイゴさんのうしろにいると思いますよ!

小池:いや、前にいるんだよ。感じ悪いな(笑)。

もりと:ノーコメントで(笑)。

敬愛していた和田誠さんの作品

取材日 2020.8.22
文:MORITORATION編集部

後編に続く>>