小さい頃の自分に、「こうなってよかったね」と

MORITORATION_Vol.5【後編】

小さい頃の自分に、「こうなってよかったね」と

まるやまあやこ Maruyama Ayako絵本作家

描きたいシーンがお話の種に

もりと:絵本を作る時は、最初はどのように思いつくんですか?

まるやま:「このシーンを描きたい」という絵が最初に浮かんできて、最初と最後はこんな感じにしたいな、というふんわりした考えはあるんですけど、その間はどうしたらいいかわからない状態のところからはじまります。

もりと:じゃあ、とっかかりはお話より絵が先にあるんですね。

まるやま:そうですね。たとえば『いいはがはえるおまじない』(こどものとも2024年4月号 福音館書店)では、ネズミさんが自分のところに来てくれるところが描きたいなと。「歯が抜けてはえてくる」みたいなお話にして、そこにネズミさんが来てくれたらうれしいなって。「こんなことがあったらいいのにな」が、多分最初にあるんだと思います。

『いいはがはえるおまじない』の最初のラフ

もりと:『まよなかのトイレ』の時は、どうでしたか?

まるやま:この時は「行って帰って来る」お話が描きたいなと思って、最初は「おうちの中のお話にしようかな」くらいでした。子どもがひとりになる時間があった方がいいな、でもお風呂に入るお話はよくありそうなので、トイレはどうだろうと。暗いし怖いから、ぬいぐるみが出てきて話しかけてくれたらうれしいな、『セロ弾きのゴーシュ』みたいに、夜に動物が訪ねてくるのもうれしいから、他の動物も出てきたらいいな、と。暗い廊下で、ドアの木目が顔みたいに見えて怖いシーンは描きたいなとか。

もりと:だんだんアイデアが出てきて、それをつなぎ合わせて、絵本にしていく。

まるやま:つなぎ合わせたり、途中で飛躍しすぎてトイレじゃない世界に行っちゃったりもしましたけど、それは編集の方が戻してくれるというか。

『まよなかのトイレ』の最初のラフ

もりと:卒業制作でひとりで絵本を作ったのはすごいと思ったし、その後『まよなかのトイレ』も編集者と共に出版できたのは、やっぱり才能だと思いますよ。絵本の作り方はどこで学んだんですか?

まるやま:大学で絵本の作り方は教わっていないから、勉強しなくちゃと卒業してから「あとさき塾」に通いました。だけどその場で「こうしたらいい」とか詳しく指導されるわけではなくて。でも他の人のラフをみんなで回覧して読めたり、「こんなにいろんな人が絵本を作りたいと思っているんだな」と刺激になったというか。「この人は毎回ラフを作り直してきてえらいな」とか、私もお話作りが間に合わず電車の中で文章を考えたりしたけど、ちゃんとパソコンで打ったものを製本して持ってくる人とか、すごいなって。よかったです、そういう場所に飛び込んでみて。

まるやま:当時は就職はしていなくて、酒井駒子さんが保育園でアルバイトをしていたという話を聞いて、私もしてみました。よく親が許してくれたと思うんですけど(笑)。保育園での子どもたちがかわいくて、その場でデッサンはできなくても、「こんな感じだったな」とあとから描いてみたり。大学で「イラストの仕事をするなら人間は描けた方がいい」と言われましたが、大人は描きたい気持ちにならなくて、小さい少女とかのフォルムの方が好きで、子どもを描こうと決めてずっとやってました。

もりと:確かに、絵本の中の大人よりも子どもの方が、生き生きとしていて愛情を感じますね。大人はちょっと難しいですか。

まるやま:いい感じの大人を描くのって、すごく難しいです。描き方で世界観を壊しちゃったりしかねないから。

もりと:『いいはがはえるおまじない』って基本大人はおばあちゃんしか登場しないじゃないですか。あのおばあちゃんの描き方と、ポジションがいいなって思いました。

まるやま:ありがとうございます。そうですね、歯が抜けた時に、おばあちゃんとか、ちょっと年を重ねた人からの説明だと、「そうなんだ、歯ってそうやってはえてくるんだ」って、説得力があってちょうどいいですよね。

『いいはがはえるおまじない』のおばあちゃんのシーン

自然とファンタジー寄りに

もりと:まるやまさんの絵本って、ぬいぐるみがしゃべってたり、ネズミが出てきて太鼓をたたいてたり、ファンタジー的な要素が多いですが、それは意識して作っているんですか? ‎

まるやま:意識してというか、「自分がこうだったらうれしいな、こんなことがあったらいいのにな」っていうところからですね。

もりと:じゃあ、テーマやシーンによっては、『ひとりでおとまり』(福音館書店)のように現実的であってもいいなと。

まるやま:そうですね、『ひとりでおとまり』は、私が体験した思い出をつなぎ合わせて作ったんですけど、『まよなかのトイレ』の時は、トイレについてきてほしいのに親が起きてきてくれなかったとか、おまけに廊下の電気が切れてて嫌だったとか、そういうところから入ってるので、それだけにしちゃうと素敵なお話にならないと思ったのかな。子どもがひとりでちょっと素敵な世界に出かけて現実の世界に帰ってくるみたいなお話を作りたかったのかもしれないです。現実かファンタジーかよりも、まずページをめくる楽しさを意識した気がします。「トイレのドアを開けて、ヤギがいたら面白いかも!」と、ページをめくったらトイレにヤギがいるシーンを描きたいと思ったから、自然とファンタジー寄りになっていくというか。

もりと:いいですね、豊かですね、頭の中が。うらやましいなあ。ファンタジーはお話を作るのも難しいけど、それを描くのがもっと難しい。頭の中にちゃんとその世界がないと描けないですよね。そこが描けているのが、まるやまさんの強みだと思いますね。しかも何冊も出てるっていうのはすごいなと。

まるやま:でも本当に、編集の方のアドバイスのおかげでなんとかできているっていう感じで。ひとりだったらどっか違う世界に行って、帰って来られなくなりそうです(笑)。

想像で描くことは難しい

もりと:別の方が「作」の依頼は、どういう基準で受けるんですか?

まるやま:いただいたお話を読んで、「自分の小さい時はどうだったかな」と照らし合わせて、近い経験がある場合のお話だったら、お引き受けしている感じかな。ただ私の場合、すごく時間がかかってしまうので納期が短かったりするものは、ちょっと難しくてお断りしていますね。

もりと:まるやまさんが不得意なものを聞いてもいいですか。

まるやま:自分の目で実際に見られないものは苦手です。機械とか車とか、自分がよく知らないものを描けって言われたら、まず調べなきゃってなるので。よく見ないで描くと、「この車走らないよ」ってツッコミが来ちゃうかもしれない。『パパとドライブ』(山口稔子/文 福音館書店)の時は、実際に軽トラを借りてきて、主人に運転してもらって一緒に走ったりしました。私の父は酒屋をやっていて、私も子どもの頃、よく配達についてまわってたんです。

もりと:だから車のお話だけど描けたんですね。僕が思うに、作も絵もまるやまさんの場合って、絵がすごい自由なんですよ、のびのびしている。でも作が別の方になると、悪くないんですけど、ちょっとお行儀がいい絵になっている気がしていて。そこに機械や車が入ると、さらに硬くなっちゃってる気がする。

まるやま:そうですね(笑)。全部ひとりで作る時は気楽というのはあるかもしれません、自分で全部決められるから。作の方が別にいる場合は、私はあとからのスタートなので追いつかなくちゃってプレッシャーもあるし、「作の方がどう思うかな」と気にしながら描くのもあるし。自分では思いつけない世界を描けるのは勉強にはなるので、どちらも楽しいし、やりがいはあるんですけど。

『いいはがはえるおまじない』の模型

もりと:そういえば『いいはがはえるおまじない』も実際に模型を作って描いたんですよね?

まるやま:想像で描くのはやっぱり難しくて、登場するネズミさんを紙粘土で作ったり、お部屋も段ボールで作って、それを色々な角度から見たり写真を撮ったりして描きました。「下から光を当てたらどんな影になるのかな?」とか色々工夫しましたね。

もりと:この模型、まさに大学のゼミのおかげですね(笑)。

『いいはがはえるおまじない』の完成作品

小さい頃の自分のために

もりと:僕は娘の成長を通して絵本のアイデアがひらめく時って、どうしても親目線になっちゃうので登場人物同士があんまり会話をしないんですよね、遠くから見ているから。でもまるやまさんの作品だと、登場人物たちがちゃんと会話をしてお話になっているから、毎回感心しているんですよ。なんで子ども目線で描けるのかなと。

まるやま:会話とかは、作っていきながらだんだんできていくもので、編集の人から「こういう会話を入れたらどうですか」っていう提案もあります。編集者は最初の読者みたいな存在だけど、子どもの気持ちになって読んでくださる。だから「ここはどうしてこうなの」って質問をしてくれて、そうすると私もハッとして、考えるきっかけをもらったりとか。子ども目線で誰か別の人に見てもらうというのは、大事かも。

まるやま:保育園に勤めていた時に、昔の自分と同じようなことをしている子たちがいるんですよ、実際に。そうすると「これ、絵本になるかも」って思うんですけど、お話にするまでのリアリティってなかなか難しくて。そういう時に編集の人の助けって、すごい必要です。

もりと:すごくわかります。でもよく覚えてますね、子どもの頃のことを。

まるやま:どうでしょう、私はどちらかというと楽しかったことよりも、「あれがちょっと怖くて嫌だったな」とかの記憶があって。『ひとりでおとまり』は自分の思い出を元にしていますが、お友達の家におとまりに行ったら、もう小学校高学年くらいだったのに夜に目が覚めちゃって、おばちゃんを起こして「寝られない」みたいなことを言った自分が嫌で、恥ずかしくて。でも、大人になって、「あの時、おばちゃんすごく優しかったな。私のためだけにホットミルク作ってくれたんだ、手巻き寿司や、お友達とのお風呂も、すごくよかったな」と思い返して、それを一晩のお話にしてみようと。

もりと:「やだな」ってことを、よく覚えてますよね。子どもの頃って。

まるやま:覚えてますね。でも大人になって改めて振り返ったら、すごくよかった体験って、いっぱいあるから。子どもの頃は失敗の体験でも、お話にする時には成功体験にちょっと変えてあげて、そこは創作で、うれしい方向に変えることができるから。絵本はそういうのがいいなあと思います。小さい頃の自分がここにいるとしたら、「こうなってよかったね」ということができるから。絵本は小さい頃の自分のために作っているようなところがあるかもしれません。

『ひとりでおとまり』のラフ

絵本にすると、きっと癒される

もりと:今作っている絵本はありますか?

まるやま:いくつかあるんですけど、私は結構思いついてから、ほったらかすってわけじゃないですけど、動き出すのに何年もかかったり、そのままになっちゃうこともあって。飼っていた犬が先日亡くなっちゃって。前も犬を亡くした時に作ろうと思ったお話があって、しばらくそのままだったんですが、同じような気持ちの今の内に、ちょっと描いておきたいなと。

もりと:でもそれってなんか、つらそうだな。作っていて。

まるやま:つらそうだから、そのままにしていたのかもしれないんですけど。たとえば『ゆきのひのいえで』(Gakken)は、ちょっと母親にないがしろにされた気がして、本当に数十歩だけ家出するっていう自分の体験から描いたんですが、最後に「おかあさんの だいじな たからもの」って言ってもらったところは創作で、そういうことで自分も癒されるっていうか。

『ゆきのひのいえで』(Gakken)
『ゆきのひのいえで』(Gakken)

まるやま:保育園で働いていた時のことなんですけど、子どもたちって、「やってよ、やってよ」って言える子は構ってもらえるんですけど、何も言わない子は実は我慢していたり。ある子が「○○くんばっかりずるい」ってつぶやいたのが聞こえちゃった時に、「あ、私、自分が嫌だったのと同じことを子どもにしちゃってる」と思って。そういう反省も込めて、作った絵本だったんです。犬が亡くなったことも、きっとつらいんだけど、絵本にすると自分も癒されるし、多分。

もりと:僕がまるやまさんの絵本を読んで「ああ、娘みたいだな」って思うように、読者が「うちのワンちゃんみたいだな」って思ってくれる。

まるやま:そういう人がもしかしたらいるのかもしれないし、ちょっと進めておきたい気持ちはありますね。

もりと:楽しみにしています。これは多分まるやまさんしか描けないことだと思うし。なるほどね、やっぱり実体験が大事なんですね。

取材日 2025.8.1
文:原陽子
写真:もりといずみ